
【映画】ベルサイユのばら(2025)/2時間で収めようと思ったらこうなるかぁ~
公開2日目の2025/2/1に鑑賞。
その時点ですでに売り切れているグッズもありました。
隣国オーストリアから嫁いできた気高く優美な王妃マリー・アントワネット。
オスカルの従者で幼なじみの平民アンドレ・グランディエ。
容姿端麗で知性的なスウェーデンの伯爵ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン。
彼らは栄華を誇る18世紀後半のフランス・ベルサイユで出会い、時代に翻弄されながらも、それぞれの運命を美しく生きる。
これは、フランス革命という激動の時代の中で、それぞれの人生を懸命に生き抜いた「愛と運命の物語」劇場アニメ『ベルサイユのばら』公式サイト
う~~~ん。
正直、鑑賞前から思ってました、マーガレットコミックスで全10巻もある本編が、果たして2時間で収まるのか?と。
収めようと思ったらこうするしかないかぁ~~~。
ミュージカルにするしかないかぁ~~~。
目次
劇場アニメ「ベルサイユのばら」はミュージカルだった
ベルばら見てきました
ミュージカルだった pic.twitter.com/ErDOuwgCqQ— エターナルスリーパー巴 (@eternalslpr) February 1, 2025
そう、ミュージカルだったのです。
どういうことかというと、キャラクターの声優さんたちが歌うキャラソンのMVの背景に、エピソードがダイジェストで流れる…という感じ。
小さなエピソードを全部拾っていくと到底2時間に収まるわけがないので、どんどん巻きで進んでいきます。
というか、劇場アニメ『ベルサイユのばら』の上映時間は113分。
正確に言うと、1時間53分。2時間もないのです。
その1時間53分の間に流れる挿入歌が15曲もあると言えば、いかにミュージカルかおわかりいただけるでしょう。
な?全15曲って書いてあるだろ?
キャストには、歌唱力も求められただろうなぁ。
ダイジェストではなく丁寧に描かれているのは、バスティーユ陥落までの3日間ぐらいです。
ところで、ベルばらのメディアミックスと言えば宝塚も人気ですよね。
生の舞台でやる宝塚はどれくらいの長さなんだ?と思い、Prime Videoでレンタルできる作品の長さを調べたところ、こうでした。
最も短いもの | 2時間24分 ベルサイユのばら2001-オスカルとアンドレ編-(’01年星組・東京) |
最も長いもの | 2時間41分 ベルサイユのばら-オスカル編-(’14年宙組・東京・千秋楽) 宙組 東京宝塚劇場 ベルサイユのばら-フェルゼン編-<柚希礼音・凰稀かなめ 特別出演版>(’13年雪組・宝塚) |
宝塚でも、基本的に今回の劇場アニメより30分以上長いのです。
しかも宝塚は「オスカルとアンドレ編」「フェルゼンとマリー・アントワネット編」と、明確にメインを分けて上演します。
とにかく時間が足りないので、ある程度ダイジェストになるのは仕方ないとは思います。
削られたエピソード
仕方ないとはいえ、原作至上主義からすると、「あれがない」「これがない」って思っちゃうんだよね~~~。
具体的に削られたエピソードを上げると、
- マリー・アントワネットのオーストリア時代はカット
- デュ・バリー夫人との確執はMVの背景に
- ポリニャック伯夫人は顔見せ程度
- ロザリーが完全にモブ
- 黒い騎士事件はない
- オスカルとフェルゼンの舞踏会もMVの背景に
- ジャンヌが出ないので首飾り事件がない
- アランの妹も出ない
- オスカルは血を吐かない
- バスティーユ襲撃からあとはほぼテロップ
あと「これが食事だと言うのか…!?」とか「そのショコラが熱くなかったのを幸いに思え!」とか「千の誓いがいるか、万の誓いが欲しいか」がないとか、「アンドレ・グランディエの妻に…」の前にオスカルがバイオリンを弾いていないとか、細かいところはたくさんあります。
ただし、すべてのカットが悪いカットなわけではないです。
マリー・アントワネットのオーストリア時代はカット
例えば、これは良いカット。
原作ではマリー・アントワネットの子ども時代から描かれていますが、映画はマリー・アントワネットのフランスへの輿入れパレードから始まります。
歓喜に沸く人々、豪華なパレード、荘厳なヴェルサイユ宮殿など、圧倒されるような美しく活気のある風景が続き、フランスへやってきたばかりのマリー・アントワネットが素晴らしい景色に目を輝かせるのと同じく、映画が始まったばかりの私たちも期待に胸がふくらみます。
その後キャラソンが始まって、目が点になるわけですがね。
デュ・バリー夫人との確執はMVの背景に
「今日はベルサイユは大変な人ですこと!」の原作シーンを想起させる絵はありますが、MVの背景扱いなので台詞はありません。
その後マリー・アントワネットが耐えきれずに退席し、廊下でオスカルと会話をするシーンは台詞がありますが、原作を知らない初見の人は、なんでマリー・アントワネットが泣いてるのかわからないのでは?
ポリニャック伯夫人は顔見せ程度
「あーこれポリニャック伯夫人だな」というキャラは映りますが、台詞は一切なし。
バスティーユ襲撃時にも明らかに名前がありそうなのに台詞がないキャラが映りますが、あれはナポレオンでいいのかな。
ロザリーが完全にモブ
ロザリーは出ますが、びっくりするぐらいモブです。
ノアイユ伯夫人の方が出番も台詞も多いレベル。
オスカルとも、たまたま同じ場所に居合わせたという程度です。
もちろんジャルジェ家へ居候することもありません。
ポリニャック伯夫人との関係も描かれません。
黒い騎士事件はない
黒い騎士事件がないので、アンドレが片目を失う流れが原作と違います。
映画版では、馬車の前に飛び出したピエール坊やとド・ゲネメ公爵がもめているところにオスカルが止めに入り(ここでロザリーも登場)、興奮したパリ市民たちに「おまえらも貴族か!」と襲われます。
このときにアンドレがオスカルをかばって…という流れ。
これは尺を考えると納得できる改変です。
黒い騎士事件はありませんが、ベルナールは出てます。
オスカルとフェルゼンの舞踏会もMVの背景に
台詞の少ないエピソードではありますが、ここは背景じゃなくしっかり描いて欲しかった…。
ジャンヌが出ないので首飾り事件がない
首飾り事件がないあたり、本作は宝塚でいうところの「オスカルとアンドレ編」なのかもしれません。
それならもっとマリー・アントワネットとフェルゼンを脇役に下げて、オスカルとアンドレにフォーカスしても良かったかも。
アランの妹も出ない
インパクトの強いエピソードですが、映画版では登場しません。
これは自分が監督でもカットするだろうなと思うので、納得のカット。
オスカルは血を吐かない
明言されてはいませんが、原作では終盤オスカルが結核を患う描写がありました。
映画版ではなし。
バスティーユ襲撃からあとはほぼテロップ
オスカルとアンドレ編と思えば仕方ないとも思えますが、オスカル退場後のマリー・アントワネットはほぼ描かれません。
ヴェルサイユへの行進~ヴァレンヌへの逃亡~ギロチン~フェルゼンの死まではエンディング曲が流れる中、ほぼテロップで進行します。
絵も歴史画のようなもので、キャラクターの絵はありません。
テロップで流れるのを見ていると、あと20分ぐらい伸ばしてここも描いて欲しかった!という気になります。
あるいは、宝塚で言うところのオスカルとアンドレ編にするのであれば、こんな中途半端な描き方もせず、オスカルの最後でバシッと切ってしまっても良かったのではないかなとも思います。
謎の心象風景が多い
削られたエピソードが多い割に、ただのミュージカルではなく私が「MV」と言ってしまう要因なのですが、オリジナルの心象風景がよく出てきます。
イバラまみれの空間で歌うメイン4人とか、仮面をつけて鎖につながれて木偶人形のようになっているオスカルとか。
言いたいことはわかるんですよ。
今の自分の立場では自由がない、望みが叶わないことへの葛藤みたいなね。
でも恥ずかしいの!
中二病見てるみたいで!
これらを全部削ったら、もう1エピソードぐらい入れられたんじゃないかなぁという気もします。
元々この映画は、「YOSHIKIの曲+ベルばらの映像」という限りなくMVに近い形でパイロット版が2007年に公開されているそうなので、その流れを汲むとこういう構成になっちゃうんでしょうかね。
前述の「仮面をつけて鎖につながれて木偶人形のようになっているオスカル」は、なんとなく往年のXを彷彿とさせる雰囲気がありました。
良かったところ
とはいえ、映画は映画なりの良かったところもあります。
作画、特に美術が良い
キャラクターはキラキラしすぎて賛否が分かれそうな感じではありますが、作画の狂いなどはなく終始美しい画ばかりでした。
特にヴェルサイユ宮殿やテュイルリー宮殿など、美術背景が抜群に美しい。
私はヴェルサイユ宮殿の実物を見たことがあるんですが、まさに見てきた通りに描いてありました。
このあたりはしっかり考証して描いてあるんだろうなと思います。
オスカルのラストはしっかり描いてある
最後のテュイルリー宮殿での暴動やバスティーユ襲撃はしっかり描いてありました。
ここを描きたいがために、前半をミュージカルにしたのでしょう。
クライマックスは劇場内からすすり泣きが聞こえるほどでした。
(公開2日目だったので、熱いファンが来ていたからかもしれませんが)
このクオリティで全編やってくれたら…と思いますが、2時間どころか1クールアニメにも収まらないでしょうから難しいですね。
演者は良い仕事をしている
メイン4人は子ども時代からアラフォーまで成長しますが、みなさん年代に合わせて声のトーンが変わっていくんですよね。
顕著なのがマリー・アントワネット役の平野綾さんで、初登場時は14歳のキャピキャピした感じの声なんですが、だんだんと落ち着いた大人の女性の声になっていきます。
これは素直に「スゲー」と思いました。
脇役が豪華すぎる
ばあやが田中真弓さん。
田中真弓さんがばあややる時代か~とも思いますが、ばあやはまあまあ出番あるからいいんですよ。
それより、ほぼワンシーンしか出番のないロザリーが早見沙織さん、ルイ15世が大塚芳忠さん、ジャルジェ夫人が島本須美さん。
もったいない使い方すぎんだろ!
本編を2時間に収めるのは誰がやっても無理
これはもう、正直監督は貧乏くじですよ。誰がやっても不満は出るでしょう。
仮に私が「ベルばら本編を2時間の映画にしろ」って言われたら、頭抱えると思います。
理想と、実際にできることに差がありすぎて。
メインがオスカルとアンドレになるのは当然だけど、マリー・アントワネットとフェルゼンは外せない。
他にも出したいキャラはいっぱいいるが、2時間という制約を考えるとどうしても入れられない…。
一見さんも来るかもしれないから、そういう人たちにもわかるようにしなければ…。
この映画も全方位に配慮している感じはしました。
配慮しすぎて、結果全方位が物足りないと感じそうですが。
「2時間という枠しかない」のであれば、かなり思い切った取捨選択をする必要があったと思います。
いくつか案を考えてみました。
① 「オスカルとアンドレ編」と銘打って、マリー・アントワネットとフェルゼンを完全に脇役にする
宝塚でも「オスカルとアンドレ編」「フェルゼンとマリー・アントワネット編」と分かれてますし、むしろ分けないと収まらないのでは?
あらかじめ「オスカルとアンドレ編ですよ」と告知しておけば、マリー・アントワネットとフェルゼンの出番が少なくても納得できますしね。
② 本編ではなく、外伝やエピソード編を映像化する
本編をやるのが一番人を呼べるとは思いますが、いかんせん時間が足らん。
なら「外伝 黒衣の伯爵夫人」とかエピソード編のいくつかをアニメ化しても良かったんじゃないでしょうか。
2時間なら、単行本2~4巻分ぐらいをアニメ化し、オリジナルエピソードもちょっと入れる…ぐらいの量が一番満足度高く仕上がりそうです。
が、「ベルばら本編の映画化します、お金ください!」と「ベルばら番外編の映画化します、お金ください!」ならスポンサーの感触も違いそうですね…。
③ NetFlixやPrime Videoの配信専用でアニメ化する
これが一番良かったかも。
配信専用で30分×全6~7話ぐらいのアニメにすれば、ちょうどいいボリュームになりそうですね。
本編じゃなく外伝・エピソード編でも良さそうですし。
私なら見る。
結論:これは映画化ではなく、新録のダイジェスト版作成だったのだ
こう考えるとすごい良いものに思えてきた。
令和のキャスト、制作会社が本気で、ベルばらを作るとこうなるよ!
おいしい場面だけ見せてあげるよ!
つまり…パイロット版だ!(またか!)
物足りない人は原作読みましょう。
特にこの映画がファーストベルばらの人、これでベルばらをわかった気になるんじゃねえぞ!